テストステロン
テストステロンとは男性ホルモン(アンドロゲン)の中の主な構成成分です。テストステロンは筋肉発達や維持、造血作用、男性の性行動や性機能に重要な役割を果たしています。また、集中力の維持や仕事や生活の中での高度な判断力など、脳機能にも関係します。
テストステロン値の低下は性機能障害、認知機能・気分障害、筋肉量の減少、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性を介したメタボリック症候群、貧血、骨密度の減少などを招くと言われています。
加齢とテストステロン
加齢に伴い総テストステロンは低下していきます。40歳での2-5%、70歳になると30-70%でテストステロン値が低下すると言われています。また、生理活性をもった遊離テストステロンも低下するため、総量だけでなく、ホルモンの機能も低下します。つまり、加齢に伴い男性ホルモンの働きは顕著に減少するのです。
検査タイミング
テストステロン分泌は朝に高値となり、夜にかけて低くなっていくという日内変動を有するため、午前8時から11時までに採血することが望ましいとされています。
重要なのは生体内で男性らしさをつくるために働くことができるテストステロンは限られていますということです。循環テストステロンの構成は[総テストステロン=遊離テストステロン(1-2%)+アルブミン結合テストステロン(25-65%)+SHBG(性ホルモン結合グロブリン)結合テストステロン(35-75%)]です。このうち男性ホルモンとしての働きをもつ生物学的活性テストステロンはSHBG結合テストステロンを除いた遊離テストステロンとアルブミン結合テストステロンになります。
LOH症候群
加齢に伴いテストステロン値が低下することによる症候を late onset hypogonadism (LOH症候群、加齢性腺機能低下症)と呼びます。
AMSスコア
症状を評価するため、Aging Male Symptom (AMS) score が現在汎用されています。AMSは、精神・心理、身体、性機能など17項目についての5段階評価を総計し、合計26以下は正常、27-36は軽度の症状 、37-49 は中等度の症状、50以上は重症とするものです。
テストステロン補充療法(TRT)
TRTには経口剤、注射剤、皮膚吸収剤(軟膏)がありますが、わが国では注射剤エナント酸テストステロンのみが保険適応となっています。通常2週間おきに125mg~250mgを筋注することで臨床効果が得られます。軟膏は注射剤と比べて非侵襲的かつ生理的であり、欧米では使用量が増えていますが、我が国では保険適応外です。
TRTによって、筋力、骨密度、脂質、インスリン感受性、性欲(勃起不全)、健康感の改善が認められます。
前立腺癌
男性の尿道近くにある臓器である前立腺に生じる癌のこと。男性ホルモンとの関連が指摘されています。TRTにおけるこれまでの検討では、治療前に前立腺癌がない事を必ずスクリーニングして、定期的にPSAを測定することで前立腺癌の合併を見逃さない努力がなされています。当院でも必ず、検査前、治療途中にPSA測定を実施します。このように定期的な管理を行うことで、テストステロン補充は安全に施行可能であり、前立腺がん発症リスクとの因果関係は否定的という見解になっています。治療前にPSAを測定し、2.0 ng/ml以上であれば前立腺癌の除外のため、泌尿器科へ紹介することとしています。